Brugada(ブルガダ)症候群
<< 簡単な解説 >>
最近、突然死との関連で注目されている疾患で、 常染色体優性 の遺伝傾向があり、Naチャンネル ( SCN5A遺伝子 ) の欠陥 による右室流失路におけるイオン電流の異常 が原因 (V1-V3 誘導に反映) とされています。
日本人の約 0.15% で認められ、罹患率は男性が女性の約9倍で、20歳代より発症し、 30歳代でピークとなります。
突然死の家族歴や失神などの症状がある場合は予後不良ですが、 それ以外の予後は比較的良好です。
一般的に Coved typeの方が、 Saddle-back typeより予後が不良です。
<< 診断と対策 >>
<< Brugada症候群の診断 ガイドライン >> (日本循環器学会)
*Brugada型心電図におけるST上昇度の評価 はST部の終末部で行い( ST部後半部 )、基準線 としてはいわゆる基線を用います ( P波起始部と次の心拍のP波起始部を結んだ線 )。
*自然か薬剤負荷で、上記の タイプ 1 のECG所見が認められた場合 のみ ”Brugada症候群” と診断でき、 タイプ 2 や タイプ 3 の場合 は断定できない としています。
『QT延長症候群とBrugada症候群の診療に関するガイドライン』で、
ブルガダ型心電図 タイプ 1のcoved type(Brugada症候群の典型的な心電図所見で、薬剤投与後の場合も含む) が右胸部誘導の一つ以上 に認められることに加え
1) 多形性心室頻拍・心室細動が記録されている
2) 45才以下の突然死の家族歴がある
3) 家族に典型的タイプ 1の心電図のひとがいる
4) 多形性心室頻拍・心室細動が電気生理学的検査によって誘発される
5) 失神や夜間の瀕死期呼吸を認める
の内一つ以上を満足するものとされています。
<健診の「Brugada症候群(の疑い)」の心電図判定について>
日本循環器学会の診断ガイドラインからも、Brugada症候群の診断では、心電図で「Brugada型 タイプ 1のcoved type 」が認められることが重要な条件となっています。
つまり、「Brugada型 タイプ 2 のcoved type」 や 「Saddle-back type」の心電図所見が認められた場合は、「45才以下の突然死の家族歴がある場合」、「失神発作が認められる場合」、「心電図検査でVTやVfを指摘されたことがある場合」 などを除き、ブルガダ症候群と 診断されることはほとんど無いと考えられます。
また、国立循環器病センターの鎌倉先生の「心電図タイプと家族歴による心事故発生率比較」のデータによると、心事故は、「Brugada型心電図 タイプ 1のcoved typeで、 突然死の家族歴がある場合、失神発作が認められる場合、心電図検査で心室細動を指摘されたことがある場合」などで発生し、それ以外ではほとんど認められないとなっています(下段参照)。
大阪市大の高木先生も、J-IVFS登録データ213例を用いた検証結果より、健診で指摘された症例の基本的な治療方針としては、「 無症状であれば積極的に治療する必要は無いだろう」とコメントしています(下段参照)。
一方、多くの心電図測定機器の自動判定では、「Brugada症候群(の疑い)」と 共に 「【不】完全右脚ブロック」と記載されています。 それは、Brugada型心電図は、 ほとんど「右脚ブロック様所見」を呈するからです。
実際、Brugada症候群の概念 が出てくるまでは、このタイプの心電図所見は 、ほとんど 「【不】完全右脚ブロック」 と扱われてきました。 さらに、12誘導心電図所見が「Brugada型 タイプ 2 のcoved type」 や 「Saddle-back type」であるというだけでは、「Brugada症候群」か否かの 結論は出せません。
そこで、健診の「Brugada症候群(の疑い)」の心電図判定では、「【不】完全右脚ブロック」だけとするか、Brugada症候群の疑い」 のコメントを追加するかの判断となります。 「Brugada型 タイプ 1のcoved type 」以外の心電図所見で、「Brugada症候群が疑われる症状やBrugada症候群の家族歴が全く無い」のであれば、健診における心電図判定としては、心電図学的には多少問題がありますが、「【不】完全 右脚ブロック」だけとして良いのでは? と個人的には考えています。
そして、「Brugada症候群の疑い」 のコメントを 追加した場合でも、取り扱いの判定区分は「経過観察」で十分であると考えます。
尚、精査のために循環器内科を受診した場合、外来で実施される検査は、問診、聴診、 12誘導心電図検査、24時間ホルター心電図検査、負荷心電図検査、加算平均心電図検査、 心臓エコー検査、胸部X-P検査、遺伝子検査(Naチャンネル関連遺伝子)などであり、 これらの検査で「Brugada症候群」が強く疑われた場合は、入院して「 心臓電気生理学的 検査(EPS)」や「薬剤負荷心電図検査」などを行い、診断を確定していきますので、 受診には大変大きな負担となります。
<健診でのBrugada型心電図の取り扱いチャートを提案 >
*「健診でBrugada型心電図を指摘されても、無症候なら積極的な治療は不要である」 との意見もあります。
Brugada型心電図の植え込み型除細動器の適応 に関しては、2013年に 米国不整脈学会(HRS)、アジア太平洋不整脈学会(APHRS)、欧州不整脈学会(EHRA) の3学会合同で エキスパートコンセンサスステートメントが出され、これを受けて、2015年に欧州心臓病学会(ESC)から、 ほぼ同じ内容のガイドラインが出された。
それによると、心停止蘇生、あるいは持続性のVT/VF が確認されている症例は植え込み型除細動器適応の クラス I に分類され、心停止蘇生、あるいは持続性のVT/VFが確認されない症例の場合、心原性の失神を有し、 自然発生型のタイプ1を示す場合は クラス II a に、これらを満たさない場合で電気生理検査でVT/VFが誘発される場合は クラス II b に分類されるが、 J-IVFS登録データ213例を用いて検証したところ、 心事故の発生はクラス II a 適応群 12.1% (年間発生率 2.2%)に対し、クラス II b 適応群は 2.7% (年間発生率 0.5% ) の心事故発生率で、クラス II a 群が クラス II b 群よりも有意に予後が悪かったという結果でした。
そこで、大阪市大の高木先生は、健診で指摘される症例については、コンセンサスステートメントでは、「自然発生型あるいは薬物誘発性タイプ1型の心電図にならないものはブルガダ症候群ではない」という判断のため、 診断の目的で、自然発生型のタイプ1が認められるかをホルター心電図 で確認したり、自然発生型タイプ1が認められない場合は薬物負荷をして薬物誘発性タイプ1になるのかを確認することになるが、基本的な治療方針としては、 無症状であれば積極的に治療する必要は無いだろうと指摘しています。
<< Brugada症候群の心電図所見の成り立ち >>
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「右脚ブロック型の波形」は、「J波の振幅増大」 と「ST上昇」が一体 となった「右脚ブロック様所見」 です。